本名を名のる、名のらないについては、在日の場合、様々な事情があります。特に就学と就職については、人間が生きていく上で致命的ではないでしょうか。ただ単に、「しんどい」だけではすまされず、「ゴハンが食べていけない」ことになりかねないからです。

そうしたことは私自身、何度も経験してきています。

僕より上の世代の日本人は、よく「朝鮮人は何を考えているかわからん。信用できん」とよく言います。こうした考えは、古い世代の日本人の朝鮮人観を、よく現しているように思います。

情緒、感性、感じ方。確かに在日は日本人と異なります。しかし、それは主に、普通の日本人が生きているのとは、かなり異なる状況で生きているところに原因があるように思います。

リストラが当り前。それどころかリストラされるまでいった事がない。会社にすら就職できない。だいたいから、この世に生まれた途端、リストラされたも同じです。いつでも、どこでも、リストラが当り前の状態。いまさら、リストラも何もないのです。そうした状況の中で、在日がいつも考えていることは、ただ一つ。「どうやってゴハンを食べていくか」、ただそれだけです。

それと、何を考えてよいのかわからずに、いつも思い悩んでいるのは、当の、在日朝鮮人です。自分が誰なのか、何者なのか、自分でもわからないのです。普通、日本人には、生まれながらにして、日本の文化や伝統、歴史が備わっています。誰も意識はしていませんが、いわば、暗黙の了解として無意識の内に共有しています。僕には、そうした共有部分がありません。そうした意識の共有、連帯感は僕にはありません。

それと、もう一つ。

確かに昔から、「本名」であっても、就学・就職は出来たと思います。ただ、続かないということでしょう。

僕は２５年ほど前、つまり朝鮮関係の仕事を辞めてから一時、日本の零細企業でサラリーマンとして働いたことがあります。

上司は頃合いをみては「和が大切。日本社会の美徳だ」といい、「あっち（つまり朝鮮人）は、辛いものばかり食べるから、いつまで経っても遅れたままでいる」といいます。周りのみんなが笑い出し、ぼくも、そうだと笑います。

いっしょに、笑うしかないのです。いっしょに、笑う以外に僕が生きて行く方法はないのです。それがわかっているからこそ、弱みに付け込むのです。しかし、どこへも安定した就職口のない朝鮮人にとって、それは非常に大事なことなのです。

そうやって、自分の祖先そして自分の子供を侮辱し続けることで、お給料をいただけるのです。僕自身にではありません。僕の子供と、まだ見ぬ孫の末代にいたるまで、辱め続けることによってのみ、僕は生かされるのです。自分のもっとも大切なもの、自分の命よりも大切なもの、自分の心の拠り所を、自分から進んで踏みにじり辱めることによってのみ、生き延びさせてもらえる。それが「朝鮮人」です。