日本人の中には、特に意図的な悪意がある訳でもないのに、相手に、限りない敵意と憎しみを植え付けてしまう人もいます。

こうしたことは本来、知人とか友人同士でしたら、たわいのない日常会話に過ぎないのですが、生きて行く上で決定的な意味を持つ、上司と部下、元請と下請けの間で話されます。むしろそうした上下関係の中でこそ、真剣に言い渡されます。「あいつの本名を知ってる」「あいつら朝鮮人は、本名を隠していつも裏でコソコソ悪い事してるから、毎年、役所へいって指紋をとらされてるんや」などと、わざと聞こえるように、陰口を言う。在日に対する指紋押捺制度はとっくになくなっていても、制度があろうとなかろうとかかわりなく、「朝鮮人は犯罪者でなければならい」のです。日本では、朝鮮人はこの世に生まれた途端、「犯罪者」の烙印を押されるのも同じです。日本にはもちろん、「朝鮮人を差別し、辱めなさい。」などという法律はありません。しかし、実際には、そんな法律など必要がないという感じです。

よく言われるような、在日朝鮮人の法的地位とか、国際条約とか、歴史的事実がどうだとか、そうしたこととは関係がないのです。それ以前の、日本人一人一人の「感覚」の問題だと思うのです。朝鮮人の問題ではありません。日本人自身の「良心」の問題だと思うのです。

もちろん、こうした差別というのは、現在の日本社会には見当たりません。しかし、多かれ少なかれ残っています。子供に本名をなのらせ、表札に朝鮮名を掲げるのに、身の危険を感じるのはこのためです。また、陰湿ないじめも後を絶ちません。いったんいじめが起きると、助けてくれる人はいません。それになによりも、本名では自分のしたい仕事につくことが難しいです。これでは生きて行けない。自分を隠して偽ることでしか、生活の糧を得ることが出来ない。これが、日本社会の現実です。

しかし、こうした考え方は、部落や障害者に対してもあるのではないでしょうか？例えば朝鮮人を、日本社会のよそ者であると思うことによって、自分は普通の日本人であると、そう思えて来ないでしょうか？普通であること。自分は周りと同じであるということ。これが日本社会の、暗黙の根本原理なのではないでしょうか？

ここは日本です。当然、日本の常識と秩序に従わなければなりません。しかし、自分の誇りうるべき過去を捨てての日本国籍取得もそうなのでしょうか。近所に対してはもちろん、戸籍、冠婚葬祭、血縁、さらには食べ物にいたるまで、チョウセンにつながるいかなる痕跡をも、決してバレないように、すべて徹底して抹消します。誰も知らない所へ引っ越して、戸籍を白紙に戻し創始改名して、親戚との絶縁もためらわない。自分から進んで、そうするのです。こうした旧朝鮮人は、そうする以外に生きて行く方法がないのでしょうか？